思うこころ


『あの・・ソレはどう言う意味でしょうか?』

首を傾げ、横に座っている人物に聞き返せば、
柔らかく微笑み、ゆっくりと言葉が告げられた。

同じ人物のはずなのに、

今は、

刺す様な視線を受け、視線を合わせれば、
何もかもを忘れてしまう程の恐怖を感じ、再び目を閉じる。

解るのは、目の前に人が居る事。

その人物は怒っていると言う事。

そして、怒らせたのは自分だと言う事。

視界を暗くしても、解る視線に息をするのも苦しく、座り込みそうになる足に力を入れ、
立っていれば、耳元から声が聞こえた。

「こんにちわ、さん」

聞こえる穏やかな声に、瞼を開けかけるが、
頬に触る髪にぎゅっと目をつぶった。

さん」

呼ばれる名前に声が出せない。

作られる言葉に、頬をなぜる髪、近くに居る事を教え

「大丈夫?何度も呼んだんだけど気付いてくれなかったから、
 つい、引っ張ちゃったけど・・」

大丈夫?

感じた視線が間違いだった様に、
すまなさそうな言葉と、普段より覇気のない声に首を振り、

「い、いえ!」

慌て否定すれば、

「そう?」

首を傾げたのか、髪が頬を撫ぜ、きつく瞼を閉じる。

全てを拒否するかの様に、意識を暗闇に移動させようとするが、

さん」

聞こえてくる声が優しく、拒否をする事が出来ず、
誘われるままに瞼を開け、視線を動かす。

優しい微笑み

自分の視線より上にある顔を見、ほっと体の中に重い息を落とした。

微笑みから、ゆっくりと目を閉じ、再び目を合わせば、表情を曇らせ、

「ウチの後輩が迷惑をかけてしまったみたいで、すまない」

硬く作られた言葉に、視線を落とし、

「いえ・・」

曖昧な返事を返す。

言われた言葉に、昼間の出来事を思い出し、

思い出にしよう、

と、している気持ちが、再び熱を取り始める。

さん」

名を呼ばれ、床を見ていた視線を上げれば、先程と変わらない表情のまま、
見下ろされ、視線が合う。

「あの・・・・?」

どう反応すればいいのか解らず、
内心、困惑をしていれば、

「本当に?」

柔らかな音に、体温が上がり出し、脳が都合良く考え始め、
浮かぶ考えを振り払うが、心と脳がどちらの考えを否定し、思考が動かなくなる。

怒っていない事の安堵。

思い出にしなくても良いのではないか?

そんな淡い期待

もう2度と、悲しい思いをしたくない。

同じ悲しみを味わう恐怖。

選べない思考は、全てを止めた。

どう、すれば・・・

どっちを選べばイイのだろう・・・

選ばなければいい?

どっちがラクなんだろう?

疑問ばかり浮かび、答は出ない。

どっちが・・・

止まる事のない考えに埋め尽くされる中、何かを感じ
意識を考えから離し、視線を上げれば、優しい目が視界に入り、頬をなぜられ

「何かあった?」

変わらない声、心配の色を持つ目

答が出かける・・・

「なんでもナイです」

口元をゆっくり上げ、返事を返す。

自分とは違う体温と指の感触を頬で感じ、手の大きさに
全てを預けてしまえる安心感を感じ、目を閉じる。

奥に仕舞いこんだ思いが、じわじわ心に染み出す。

壊れ物を扱う様に、優しくなぜる手が止まった瞬間

「橘と何かあった?」

突然の言葉に目を開け、驚けば、
先ほどの柔らかな雰囲気はドコにもなかった。

あるのは、真剣な目

イタイと感じる雰囲気

思いがけない言葉に驚き体を揺らすと、握られていた手首に
力を込められ、痛みが走る。

「どうして?」

問われる意味が分からず、疑問を返せば、

「悲しそうな顔をしていたから」

綺麗に微笑み作られる言葉に、言葉を失い、
呆然と見上げれば、

「だから、橘と何かあったんじゃないかと、思ってね」

外す事を許さない目の強さに、押されながら、震える声で言葉を作りだす。

「ありませんよ」

なんとか返事を返すが、

「本当に?」

「本当です」

再び問われ、今度はしっかりと返す。

「じゃぁ、どうして悲しそうにしてたの?」

「それは・・・」

瞼を閉じ、強引に視線を外し下を向く。

自分の中でも出ていない答えを、言葉に出来なった。

好きになった。
けど、思い出にする。

自分の中の経験として今後に役立てたい。

そう、思った。

「それは・・・」

小さくなる言葉に、耳元で声が聞こえた。

「え?」

視線を上げ、幸村の表情を見れば、苦笑をしていた。

「違います!
 幸村君の誤解です」

首を左右に振り、否定をすれば、

「余りにも楽しそうに話していたから、
 ソウなのだと思ったんだけど・・・」

首をかしげ、何度目のかの問いかけに

「橘君にはちゃんと、そういう子がいます」

視線を合わせ答えれば

「うん、そうみたいだね」

微笑みながら頷き、再び言葉を紡ぐ。

「俺の勘違いだったみたいだね」

ごめんね

苦笑と共に、掴まれていた手首が離され、
張り詰めていた気を抜き、

「いえ・・・」

曖昧な笑みと言葉を返し、離れるタイミングを計る。

「あの、幸村君、私そろそろ・・・」

帰ります。

そう、告げようとする中、

さんは、好きな人、居ないの?」

「え?」

聞こえてくる言葉に、目を大きく開き驚けば、

「俺は居るんだけどね」

クスクスと笑う声と、告げられた言葉を聞き、

「あの、私は・・・」

顔が熱くなるのを感じながら、早口に言葉を作るが、
館内に流れる音に消されてしまった。

「残念。
 タイムアップか」

幸村の残念そうな表情に、聞こえていなかった事に安堵しながら

「私、帰りますね」

なんとか、冷静さを表に出し微笑めば、

「送るよ」

その言葉で2人共、ロビーへと足を進めた。

「あ、ひまわりを見に行っていいかな?」

「はい」

「昼間見た時、綺麗に咲いていたし、
 館内でも、ウワサになってるんだよ」

「そうなんですか?」

「うん。良かったら、種が欲しいんだ。
 分けて貰えるかな?」

「取れたら、分けておきますね」

他愛も無い話をしながら、ロビーを抜け、正面の自動ドアまで進めば、
自然と足が止まり、

「今日はゴメンね」

幸村の何度目かになる誤りに、首を振り

「気にしてません。
 でも、勝つのは不動峰だと、私は思っています」

ハッキリという言葉に、

「ふふ、それはどうかな?」

微笑み、

「どうしてだか、聞いても良い?」

告げる言葉は真剣な声だが、

「どん底を見て、負けを知って、悔しさに耐え、
 決意を新たにした者は、そう簡単に負けません」

返した言葉も、負けないぐらい真剣だった。

の言葉に納得したのか

「そっか・・・
 じゃぁ、試合の時は見に来てね」

表情を崩さず頷き、の返事を見た。

試合が楽しみだな・・・

呟く言葉に、

「はい」

頷きながら返事をした後、

「送って頂き有り難うございました」

頭を下げ、外へと向かう。

冷房の効いた室内から、熱気のある外は、
未だに体内にくすぶる熱を誤魔化してくれる気がした。
 





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                 最終話

                      如何でしたでしょうか?
                      書けば書くほど、幸村の性格が解らなくなってきました・・・

                      一応、シリアスを目指してみたのですが、全然シリアスじゃないような・・
                      まだまだのようです。

                      幸村シリアス話、この話にて終了です。
                      短編などで、この2人が書けたらいいな・・・
                      
                      読んでくださった方、本当に有り難うございます。

                                                               2005 3 1